「絵は描く人の心を写すのだ」
「人の心……」
「そうだ。邪悪な心を持った人が描けば絵に現れるし、然りそれは逆もある。用は絵は写し鏡なのだ」

 ……絵が写し鏡。

「この絵を描いた生徒は、それはもう心の優しい子で、温かな生徒だ」

 ーーああ、なぜだろう。どうしてこんなにも温かな気持ちになるんだろう。

 校長先生は、この絵を僕が描いたとは知らない。気づいていない。
 だからこそ、素直な感想なのだろう。

「こんな素晴らしい絵を描く生徒がいるなんて、この学校の誇りだなあ」

 僕は、思わず俯いた。

 泣きたくなった。
 でも、泣きたくなかった。

「校長先生は…どうして校長先生になったんですか?」

 顔をあげた僕は、気がつけば突拍子もないことを尋ねていた。
 すると、校長先生は驚いたように目を見開いたあと、しばらくしてそうだなぁ、と両手を後ろで束ると、

「私はね、元々親に跡を継ぎなさいと言われていたんだ。実家は旅館でねえ」

 ポツリポツリと言葉を紡いだ。

「けれど、私には夢があったんだ」
「……なんの夢だったんですか?」
「ん? ああ、それは教師だよ。学校の先生になることだった」

 …あ、だから今校長先生なのか。

「じゃあ親が教師になることを許してくれたんですね」

 僕の親とはまるで違う。そんな親だったら僕も苦労しなかったのに、なんて思っていると、いやあ、と言って後頭部をかいた。

「そうそううまくはゆかぬものだ。当時はねえ、そりゃあ大変だったんだ」

 と苦笑いを浮かべるものだから、え、と声を漏らす。

「親は旅館を継げというが私は継ぎたくない。毎日毎晩親父と言い合っていたさ」
「えっ、校長先生がですか?!」
「今じゃ校長だけど、私も当時はただの学生だったからねえ」

 ……あっ、そりゃそうか。僕ってばなんて勘違いを。

「私もまだ若かったんだよ。自分の好きな道へ進みたいと、そう思うことは当然のことだろう?」
「当然……」
「なんだい。きみは、そう思わないのかい?」

 レンズ越しの瞳で真っ直ぐ見つめられて、全てを見抜かれてしまいそうだと思った僕は、