「え、あっ、違った?!」

 さすがの僕自身も恥ずかしくなって訂正しようかと思っていたら、ううん、と首を振ったあと、

「ぎゅーんで合ってると思う!」

 僕をからかうようにクスッと笑った水帆。

「なんだよもうー」

 いつもなら僕が水帆をからかう側なのに、またまた立場が好転している。
 そんな僕を見て、ふふふっと笑ったあと、おもむろに目を閉じて深く深呼吸をする。

 どうしたんだろう、そう思っていると、ゆっくりと口を開いたーー

「〝未完成な僕たちは、自分の言葉で表現するのが下手で失敗ばかり。でも失敗を恐れてばかりでは何もできない。何度失敗したっていい。がむしゃらに走って明日を描く。それが未来への一番の近道だ〟」

 突然、メロディーに乗った歌詞が流れてきて僕は固まった。

「……え?」

 なに、今の。

 息を吸うのさえも忘れてしまいそうなほど、その一瞬に全てを奪われた僕。

「私ね」ふいに、目を開けた彼女へと意識が集中する。

「今の歌詞が一番好きなんだ。失敗しても諦めない強さって言うのかな? 自分にはそういうのなくて、だからこそ憧れるっていうか」

 節目がちに控えめに歌う姿とか、だけど意外と歌上手いとか。……ちょっと、それやばいでしょ。

「……あれ、歌詞違った?」

 なにも言わない僕に不安がって、恥ずかしそうに両手で頬を覆いだす。

「ううん、一言一句合ってたよ」

 ただ、さっきは何も言えなかった。

 水帆の声に僕の全てを支配されたみたいに。

 時間が止まったかと思ったんだ。

「……だったらどうしてすぐに返事くれなかったの」

 照れくさそうに両手で髪を掴むと、顎あたりできゅっと髪を束ねて顔を隠す。

 その姿さえも可愛くて。

「まさか水帆が歌い出すなんて思わないし、びっくりしちゃったよ」

 そう言えば、顔を赤面させて、だって好きな歌だったから、とわずかに俯いた。

 その仕草をもっと見たい。そう思うけれど、これ以上は恥ずかしがるだろうから。

「僕も好きだよ」

 彼女から少しだけ視線を外す。