「被害者の関係者の話によれば、彼女は仕事熱心で器用面な性格の持ち主でした。加えてデザイン部内で優秀となれば、一日のタスクは誰よりも多く、かなり細かく管理していたのではないでしょうか。仕事とプライベートはしっかり分けていた彼女なら、定時に退社したり、カフェでゆっくりするのも計算に入れていたかもしれません。週間バーチカルタイプの手帳であれば、一日の行動もわかったと思うのですが、生憎これはマンスリー手帳。一日のマスに書き込めるスペースは限られています」
「それがどうしたって言うんだ? 手帳から犯人が分かるとでもいいたいのか?」
「確かに犯人に繋がるものではないかもしれません。ただ、その日に誰かと会う約束を、逐一書き込んでいたとしたら?」
「は……?」
「皆さんも捜査をするうえで事件の情報以外にも押さえておきたいものはありませんか? 彼女も同じように、打ち合わせの内容だけでなく、他の情報も把握しておきたかった。でも細かいことを書き込むスペースはない……それなら、書き込むものを限定すればいい。【オフィス内であれば場所を書かない】、【外部との取引であれば店名、あるいは企業名を書く】――自分ルールに乗っ取り、自分だけがパッと見てわかるように書き込んだものが、このスケジュール帳です」
「じゃあ、その日にちの数字も、被害者が自分ルールに乗っ取って書かれたものだと?」
「可能性の話です。現に彼女は夜遅くにも関わらず、誰かとの約束であの場所を訪れた。几帳面で細かい彼女は一日の予定として、スケジュール帳に書き込んでいてもおかしくないんです。だからこの事件は、被害者の行動を事前に把握していた、計画的な殺人かもしれません」

 真崎の話に刑事はアッと声を上げる。それと同時に、シグマが手で口元を覆い隠して鼻を鳴らすのを、真崎は見逃さなかった。シグマがその仕草をするときは決まって同じことを考えているのだ。このアウェイな場所で彼と同じ推理であることは、今の真崎にはとても心強かった。

「そ、それじゃあ、カレンダーには犯人が書かれているってのか!」
「バッシングを受けるくらい、かなり強引な当てはめ方をしましたが、多分当たっていると思います」

 曖昧な答え方をした真崎は、ボードに日付と謎の数字を書いた隣のスペースにデザイン部の五人の名前を書き出していく。

「これは偶然だと思いますが、デザイン部の五人の名前に数字が隠れているんです。例えば市原さん。名字に『1』と『8』が当てはまります。江川ニナさんなら名前から『2』と『7』……こうやって数字に当てはめると……」