次に呼ばれた三津谷(みつや)朝子(あさこ)朝子は、市原(いちはら)(はじめ)と同時期に入社し、旗本の指導を受けていたという。

「礼子さんのデザインはどれも素敵でした。数ミリの僅かなズレも妥協しない、彼女を目標に今まで頑張ってきたんです。それがもう間近で見れないなんて……残念です」
「最後に旗本さんと会ったのはいつですか?」
「三日前……若菜ちゃんと一緒に打ち合わせから戻ってきた時かしら。私も外部の打ち合わせがあったので入れ違いだったんです。だから挨拶程度の会話しかしていません」
「それでは、打ち合わせの後は会社に戻らなかったんですね?」
「ええ、ランチも含めた打ち合わせでしたので。その後は会社に戻らず、近くのコワーキングスペースを利用していました。会社で気分が乗らない時によく利用しています。夜の十九時過ぎに出て、市原くんに誘われて居酒屋を二、三件飲み歩いていました。終電には間に合わなかったから、タクシーで帰りました。どうぞご確認ください」

 三津谷の話から市原始に確認すると、財布から居酒屋のレシート三枚を出してきた。どれも三津谷の証言通り、事件当日の十一日の十九時、二十一時、翌日の十二日深夜一時と記載されている。

「確かに僕から誘いました。同期だし、愚痴を聞いてもらうのに最適な相手なんですよ」
「愚痴、というのは……旗本さんのことですか?」
「んー……まぁ、半分はそうですね。旗本さん、指導が外れても細かいところまで厳しかったし。でもちゃんと僕らのデザイン図を見てくれているんです。もしかしたら、自分の質を落としたくないからだったかもしれないけど……何しろ、僕はあまりデザイナーに向いていないみたいで、チェックをしてもらうと必ず愚痴交じりの小言を言われるんです」
「それほど厳しかったんですね……」
「もしかして刑事さんや探偵さんもそうなんですか? やっぱりできる上司がいるのは安心感がありますけど、ちょっとプレッシャーですよねぇ」
「ちなみに、もう半分の愚痴というのは?」
「あー……権藤さんとニナちゃんですよ。ちょっと噂になってたりとかしますからね……。だってデザイン部だけで六人しかいないのに、二人が恋愛関係にあったらめっちゃ面倒臭いじゃないですか!  ……そうだ、刑事さん達、何となく聞いてみてくださいよ。それに多分、旗本さんに一番怒られていたのはニナちゃんでしたから、なにか知ってるかも!」