前提的に、神は人々の願い──信仰心から生み出されたものである。

 人の信仰なくして存在を保つことは出来ない。けれど、その信仰を得るには人の願いを聞き届けて、力を貸し続ける必要がある。

 どれだけ信仰を得られるかは、どれだけ人々の願いに耳を傾け、応え続けたかにかかっているというわけだ。

「私ね、白火。昔かか様から神様のことを聞いた時、いつかこういう日が来るかもって心のどこかで思ったんだよ」

「え?」

「私が生きる短い人生で、まさかタイミング良く『休眠』の時期が被るなんてありえないよねって気持ちが半分。でも被らないなら、なんであえて『休眠』の説明をしたのっていう疑いが半分。……ほら、かか様って必要最低限のことしか言わないから」

 天利は言っていた。

 神々の世界は、仕事をさぼればさぼった分だけ、自分に返ってくる世界だと。

 ある意味、人の世よりもよほどシビアだ。力の弱い神ほどこの辺りは顕著で、少しでも惰性に身を任せれば、途端に信仰が失われて願いが届かなくなる。

 聞き届ける願いがなくなれば──その先に待ち受けるのは『消滅』しかない。

(だけど一番の問題は……)

 神は、『神命』を使う。

 それは神だけに与えられた特殊な力のことだ。

 商売繁盛を司る神なら、対象の店を栄えさせる。

 家内安全を司る神なら、対象に向いた不運をなかったものにする。

 そういった神としての存在に準じた、その者だけが使える力のこと。しかしこの神命は神力を多く消費するため、使い時は見極める必要があるらしい。

 というのも、神々は己の神力を行使すればするほど『穢れ』を負ってしまうから。

 この穢れが非常に厄介な代物で。

「かか様は身の内に穢れを溜め込み過ぎたから眠っちゃったわけでしょう?」

「は、はい。そう聞いておりますが……」

 天利が眠ることになった直接的な原因だ。