5
秀介が入院しなければならないと知り、怜南は稜と秀介の病室に向かった。
しかしドアを開けようかというとき、怜南は俯いて固まってしまった。
「怜南?」
それに気付いた稜が呼ぶと、怜南は稜を見て笑顔を作った。だが、稜にはそれが偽物であることは、容易にわかった。
「どうかした?」
「な、んでも、ない」
それでも怜南は言わなかった。言いたくなかった。
怜南は、自分のせいで秀介が怪我したことを気にしていた。自分がいたから、秀介を巻き込んでしまったことが申し訳なくて、顔を合わせにくかった。
そんな怜南の不安を拭うように、稜は怜南の頭に手を置いた。数回撫でると、怜南の表情が少しずつ和らいでいく。
「入ろうか」
怜南が小さく頷くと、稜はドアを開けた。
「秀介さん、大丈夫?」
秀介のベッドは角度があり、秀介はそれに身を任せた状態でいた。
「怜南、稜君。なんとか大丈夫だよ」
秀介は笑って答える。
怜南はベッドのそばまで来ると、心配そうな表情で秀介の頭に巻かれた包帯を見る。
「怜南?」
秀介は怜南の表情を見て心配になり、名前を呼ぶ。怜南は下唇を噛む。
「……私の、せいで……ごめん、なさい……」
その声は弱々しくて、途切れ途切れの言葉も、今にも泣きそうなように聞こえてくる。
「怜南のせいじゃない。怜南は何も悪くないから」
だが、怜南は余計に申し訳なさそうにした。秀介はそんな怜南の頬に手を伸ばす。
「怜南、本当に気にしないで。怜南が無事だったことを喜びたいのに、そんな浮かない顔をしてたら、僕も心配になってくるよ」
そう言われて笑顔を作ろうとするが、なかなかうまく笑えなかった。
その下手な笑顔に、秀介は吹き出すようにして笑う。それにつられるように、怜南は微笑んで見せた。
「ところで、今日秀介さんは入院するんだよね? 怜南、一人にならない?」
「そうか。怜南、どうする?」
怜南は、心配しすぎだ、一人でも平気だと言おうとしたが、里津に言われたことを思い出した。
『絶対安全な場所にいること。怜南が今日みたいに犯人と接触してしまったら、次はないかもしれない。話す余裕もなく、殺されてしまうかもしれない。そうなったら、私は怜南を助けることができない。だから、絶対に、一人にならないで』
襲われた場所である喫茶店兼家に、一人でいるのは間違いなく危険だ。里津が言っていた安全な場所とは、かけ離れている。
今だけは、稜に頼ってもきっと里津も怒らないだろうと思い、怜南はある提案をする。
「稜君の、家に行っても、いい?」
まだ流暢とは言えないが、さっきよりは止まることなく言った。さらにその目は真剣で、稜は少しだけ戸惑った。
「俺は構わないし、親も歓迎してくれると思うけど……怜南は、それでいいの?」
里津に甘やかさないようにと言われていたため、稜は今までなら絶対にしなかった質問をした。
稜は甘やかすことと守ることの境界線が曖昧になっていて、どうすることが正しいのか迷いながら聞いた。
「うん。一人でいるのは、危険だって、里津さんが、言っていたから」
稜は怜南があの里津の言うことを素直に聞く子になってしまったことに、複雑な気分だった。
「木崎さんのこと、苦手だとか思わないの? あの人、嫌なこと言ってくるでしょ」
どうしても里津を慕っている様子が気に入らないらしい。明らかに不服そうな顔をしている。
「里津さんは、いい人だよ。ちょっと、不器用さん、なの。私、里津さんがいなかったら、ずっと、何も変われなかったと、思うし……だから、里津さんは、恩人なの」
そう言われてしまうと、何も言えなくなる。
結局稜は、怜南の言葉を否定することはできないのだ。
「じゃあ稜君、怜南のことお願いね」
秀介は二人のやり取りを見届けて、そう言った。
「もちろん」
稜は秀介に心配させないように、笑って見せた。
「じゃあ、おじさん、また明日」
怜南が手を振ると、二人は病室を出た。廊下を並んで歩く。
「……あ」
すると、稜が何かを思い出したように声を出した。忘れものでもしたのかと、稜の顔を見る。
「俺のカバン、署に置いたままだ。今財布と携帯しか持ってない」
稜はズボンのポケットから折りたたみ財布とスマートフォンを取り出して見せる。
あまり重要な忘れものではなく、怜南は思わず笑ってしまった。
秀介が入院しなければならないと知り、怜南は稜と秀介の病室に向かった。
しかしドアを開けようかというとき、怜南は俯いて固まってしまった。
「怜南?」
それに気付いた稜が呼ぶと、怜南は稜を見て笑顔を作った。だが、稜にはそれが偽物であることは、容易にわかった。
「どうかした?」
「な、んでも、ない」
それでも怜南は言わなかった。言いたくなかった。
怜南は、自分のせいで秀介が怪我したことを気にしていた。自分がいたから、秀介を巻き込んでしまったことが申し訳なくて、顔を合わせにくかった。
そんな怜南の不安を拭うように、稜は怜南の頭に手を置いた。数回撫でると、怜南の表情が少しずつ和らいでいく。
「入ろうか」
怜南が小さく頷くと、稜はドアを開けた。
「秀介さん、大丈夫?」
秀介のベッドは角度があり、秀介はそれに身を任せた状態でいた。
「怜南、稜君。なんとか大丈夫だよ」
秀介は笑って答える。
怜南はベッドのそばまで来ると、心配そうな表情で秀介の頭に巻かれた包帯を見る。
「怜南?」
秀介は怜南の表情を見て心配になり、名前を呼ぶ。怜南は下唇を噛む。
「……私の、せいで……ごめん、なさい……」
その声は弱々しくて、途切れ途切れの言葉も、今にも泣きそうなように聞こえてくる。
「怜南のせいじゃない。怜南は何も悪くないから」
だが、怜南は余計に申し訳なさそうにした。秀介はそんな怜南の頬に手を伸ばす。
「怜南、本当に気にしないで。怜南が無事だったことを喜びたいのに、そんな浮かない顔をしてたら、僕も心配になってくるよ」
そう言われて笑顔を作ろうとするが、なかなかうまく笑えなかった。
その下手な笑顔に、秀介は吹き出すようにして笑う。それにつられるように、怜南は微笑んで見せた。
「ところで、今日秀介さんは入院するんだよね? 怜南、一人にならない?」
「そうか。怜南、どうする?」
怜南は、心配しすぎだ、一人でも平気だと言おうとしたが、里津に言われたことを思い出した。
『絶対安全な場所にいること。怜南が今日みたいに犯人と接触してしまったら、次はないかもしれない。話す余裕もなく、殺されてしまうかもしれない。そうなったら、私は怜南を助けることができない。だから、絶対に、一人にならないで』
襲われた場所である喫茶店兼家に、一人でいるのは間違いなく危険だ。里津が言っていた安全な場所とは、かけ離れている。
今だけは、稜に頼ってもきっと里津も怒らないだろうと思い、怜南はある提案をする。
「稜君の、家に行っても、いい?」
まだ流暢とは言えないが、さっきよりは止まることなく言った。さらにその目は真剣で、稜は少しだけ戸惑った。
「俺は構わないし、親も歓迎してくれると思うけど……怜南は、それでいいの?」
里津に甘やかさないようにと言われていたため、稜は今までなら絶対にしなかった質問をした。
稜は甘やかすことと守ることの境界線が曖昧になっていて、どうすることが正しいのか迷いながら聞いた。
「うん。一人でいるのは、危険だって、里津さんが、言っていたから」
稜は怜南があの里津の言うことを素直に聞く子になってしまったことに、複雑な気分だった。
「木崎さんのこと、苦手だとか思わないの? あの人、嫌なこと言ってくるでしょ」
どうしても里津を慕っている様子が気に入らないらしい。明らかに不服そうな顔をしている。
「里津さんは、いい人だよ。ちょっと、不器用さん、なの。私、里津さんがいなかったら、ずっと、何も変われなかったと、思うし……だから、里津さんは、恩人なの」
そう言われてしまうと、何も言えなくなる。
結局稜は、怜南の言葉を否定することはできないのだ。
「じゃあ稜君、怜南のことお願いね」
秀介は二人のやり取りを見届けて、そう言った。
「もちろん」
稜は秀介に心配させないように、笑って見せた。
「じゃあ、おじさん、また明日」
怜南が手を振ると、二人は病室を出た。廊下を並んで歩く。
「……あ」
すると、稜が何かを思い出したように声を出した。忘れものでもしたのかと、稜の顔を見る。
「俺のカバン、署に置いたままだ。今財布と携帯しか持ってない」
稜はズボンのポケットから折りたたみ財布とスマートフォンを取り出して見せる。
あまり重要な忘れものではなく、怜南は思わず笑ってしまった。