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目覚ましを止め、もう一度寝ようと毛布を引っ張るが、手ごたえがなかった。誰かいる。
稜だ。
怜南は昨日のことを思い出す。
里津が来たこと。話したこと。そして、あの日のことを思い出してしまったこと。
それから稜に寝室に連れてきてもらったのはいいが、なかなか眠りにつけなかった。だから、寝るまで稜に付き添ってもらっていたのだった。
しかし基本的に稜のほうが先に起きていることが多く、寝顔など見たことがなかったため、稜の寝顔を見て、怜南は頬を緩めた。
十分に堪能すると、稜が遅刻するのではないかと思い、稜を起こす。
「ん……」
しばらくゆすっていたら、稜が目をゆっくりと開けた。まだ寝ぼけているのか、怜南がいることに気付いていない。
「え、怜南? なんで……ああ、昨日俺、あのまま寝たんだっけ……」
目を擦りながら体を起こし、自分の部屋ではないことがわかると、昨日の出来事を思い出して納得した。それからスマートフォンで時間を確認する。
「六時半か……怜南は、もう起きるか?」
怜南は頷く代わりに体を起こした。そしてベッドのそばにある机からスマートフォンを取ると、文字を打ち始める。
『稜君、今日はお仕事?』
寝起きのせいか、いつものサイズの文字は読みにくく、稜は少し目を細めて怜南が打った文章を読む。
「うん。でもまだ余裕があるから、怜南の朝飯は作れるよ」
寝起きであることもあり、稜の表情は柔らかかった。
稜はベッドから降りて、カーテンを開ける。太陽を厚い雲が覆っていて、外は薄暗い。雨が降りそうだと思い、稜は窓までは開けなかった。
「怜南、先に風呂に入るか? 昨日、入らないで寝たろ」
振り向くと、怜南は頷いた。
「じゃあ、俺は下に行って朝ご飯の準備しておくよ」
そして稜は部屋を出ていった。怜南は下着と着替えを手に、風呂場に向かう。
昨日のこともあり、怜南は鏡で肩の傷を見ないようにしながら、風呂に入った。
今日はしっかりと髪を乾かし、歯を磨いて下に降りる。
「おはよう、怜南」
秀介はいつも通り、カウンター席に座ってコーヒーを飲んでいた。稜はまだ朝食の準備をしていたが、秀介の怜南への挨拶を聞いて、顔を上げた。
「お、今日はちゃんと乾かしているな」
稜に言われ、怜南は得意げに笑う。そして奥にある窓の外に目を向けた。稜はつられるように振り向く。
「雨、もう降りだしたのか」
どうやら、怜南が風呂に入っている間に降り始めたらしい。
「怜南、今日は雨で客は少ないだろうし、出かけてもいいよ」
秀介に言われ、怜南は目を輝かせた。
怜南は、雨の日に出かけることが好きだ。雨の日に好んで外を歩いている人は少なく、いたとしても、傘を差していると話しかけられることも滅多にないため、街中を歩きやすいらしい。
「まあまずは、朝ご飯な。今日は和食のつもりでいたんだけど、ご飯炊く時間なかったから、二日連続だけど、パンで我慢して」
稜が並べていく料理に文句などあるはずもなく、怜南は料理の前に座る。
手を合わせると、コンソメスープの入った皿を両手で持ち、丁寧に喉に通す。それから生野菜のサラダを一口、そしてフレンチトーストを口に運ぶ。
やはりどれもおいしく、笑みがこぼれる。怜南のその表情を見ると、稜は満足したように笑う。
怜南の反応を見て、使った道具の片づけを始めた。
「じゃあ俺、ちょっとシャワー浴びてくるわ」
そして稜が二階に上がり、秀介と怜南の二人きりになった。怜南は引き続き楽しそうに稜が作った料理を食べているが、その横に座る秀介は浮かない顔をしている。
「……怜南」
その声はとても低かった。
秀介が落ち込んでいるように見え、怜南は食べるのやめる。
「昨日、夕飯届けたときはまだ落ち着いてなかったみたいだったけど、大丈夫だった? あれからちゃんと寝れた?」
秀介は怜南の親代わりであることもあり、心配でしかたなかった。
秀介のその気持ちも、顔を見ればわかる。そんな秀介を安心させるためにも、怜南は力強く頷いた。
「……それならいいんだ」
よく見れば、秀介の目元にはクマがある。怜南は手を伸ばして、秀介の右手に重ねた。
「なんか、俺のほうが心配かけたみたいになったね」
秀介は笑って見せるが、怜南はまったく笑えなかった。
左手で怜南の頬にそっと触れる。
「あの二人に代わって怜南を守ることが俺の仕事だから、そんな気にしないで。ね?」
そう言われても、怜南の中から、心配かけて申し訳ないという気持ちは消えなかった。だが、いつまでもそんな表情をしていたら余計に秀介に悲しい顔をさせてしまうと思い、笑顔を作る。しかしうまく笑えていないことは、自分でもわかった。
秀介も気付いたが、その笑顔については何も言わない。
「そうだ、怜南。出かけるんだったら、買い出しお願いしてもいいかな?」
秀介は怜南から手を離して、わかりやすく話題を変えた。
話題が変わると、怜南の表情も自然なものになった。怜南は首を縦に振る。
「よし、じゃあメモを取ってくるから、怜南は朝ご飯の続き食べてて」
秀介も二階に行くと、怜南は雨音を聞きながら、コンソメスープを飲んだ。
目覚ましを止め、もう一度寝ようと毛布を引っ張るが、手ごたえがなかった。誰かいる。
稜だ。
怜南は昨日のことを思い出す。
里津が来たこと。話したこと。そして、あの日のことを思い出してしまったこと。
それから稜に寝室に連れてきてもらったのはいいが、なかなか眠りにつけなかった。だから、寝るまで稜に付き添ってもらっていたのだった。
しかし基本的に稜のほうが先に起きていることが多く、寝顔など見たことがなかったため、稜の寝顔を見て、怜南は頬を緩めた。
十分に堪能すると、稜が遅刻するのではないかと思い、稜を起こす。
「ん……」
しばらくゆすっていたら、稜が目をゆっくりと開けた。まだ寝ぼけているのか、怜南がいることに気付いていない。
「え、怜南? なんで……ああ、昨日俺、あのまま寝たんだっけ……」
目を擦りながら体を起こし、自分の部屋ではないことがわかると、昨日の出来事を思い出して納得した。それからスマートフォンで時間を確認する。
「六時半か……怜南は、もう起きるか?」
怜南は頷く代わりに体を起こした。そしてベッドのそばにある机からスマートフォンを取ると、文字を打ち始める。
『稜君、今日はお仕事?』
寝起きのせいか、いつものサイズの文字は読みにくく、稜は少し目を細めて怜南が打った文章を読む。
「うん。でもまだ余裕があるから、怜南の朝飯は作れるよ」
寝起きであることもあり、稜の表情は柔らかかった。
稜はベッドから降りて、カーテンを開ける。太陽を厚い雲が覆っていて、外は薄暗い。雨が降りそうだと思い、稜は窓までは開けなかった。
「怜南、先に風呂に入るか? 昨日、入らないで寝たろ」
振り向くと、怜南は頷いた。
「じゃあ、俺は下に行って朝ご飯の準備しておくよ」
そして稜は部屋を出ていった。怜南は下着と着替えを手に、風呂場に向かう。
昨日のこともあり、怜南は鏡で肩の傷を見ないようにしながら、風呂に入った。
今日はしっかりと髪を乾かし、歯を磨いて下に降りる。
「おはよう、怜南」
秀介はいつも通り、カウンター席に座ってコーヒーを飲んでいた。稜はまだ朝食の準備をしていたが、秀介の怜南への挨拶を聞いて、顔を上げた。
「お、今日はちゃんと乾かしているな」
稜に言われ、怜南は得意げに笑う。そして奥にある窓の外に目を向けた。稜はつられるように振り向く。
「雨、もう降りだしたのか」
どうやら、怜南が風呂に入っている間に降り始めたらしい。
「怜南、今日は雨で客は少ないだろうし、出かけてもいいよ」
秀介に言われ、怜南は目を輝かせた。
怜南は、雨の日に出かけることが好きだ。雨の日に好んで外を歩いている人は少なく、いたとしても、傘を差していると話しかけられることも滅多にないため、街中を歩きやすいらしい。
「まあまずは、朝ご飯な。今日は和食のつもりでいたんだけど、ご飯炊く時間なかったから、二日連続だけど、パンで我慢して」
稜が並べていく料理に文句などあるはずもなく、怜南は料理の前に座る。
手を合わせると、コンソメスープの入った皿を両手で持ち、丁寧に喉に通す。それから生野菜のサラダを一口、そしてフレンチトーストを口に運ぶ。
やはりどれもおいしく、笑みがこぼれる。怜南のその表情を見ると、稜は満足したように笑う。
怜南の反応を見て、使った道具の片づけを始めた。
「じゃあ俺、ちょっとシャワー浴びてくるわ」
そして稜が二階に上がり、秀介と怜南の二人きりになった。怜南は引き続き楽しそうに稜が作った料理を食べているが、その横に座る秀介は浮かない顔をしている。
「……怜南」
その声はとても低かった。
秀介が落ち込んでいるように見え、怜南は食べるのやめる。
「昨日、夕飯届けたときはまだ落ち着いてなかったみたいだったけど、大丈夫だった? あれからちゃんと寝れた?」
秀介は怜南の親代わりであることもあり、心配でしかたなかった。
秀介のその気持ちも、顔を見ればわかる。そんな秀介を安心させるためにも、怜南は力強く頷いた。
「……それならいいんだ」
よく見れば、秀介の目元にはクマがある。怜南は手を伸ばして、秀介の右手に重ねた。
「なんか、俺のほうが心配かけたみたいになったね」
秀介は笑って見せるが、怜南はまったく笑えなかった。
左手で怜南の頬にそっと触れる。
「あの二人に代わって怜南を守ることが俺の仕事だから、そんな気にしないで。ね?」
そう言われても、怜南の中から、心配かけて申し訳ないという気持ちは消えなかった。だが、いつまでもそんな表情をしていたら余計に秀介に悲しい顔をさせてしまうと思い、笑顔を作る。しかしうまく笑えていないことは、自分でもわかった。
秀介も気付いたが、その笑顔については何も言わない。
「そうだ、怜南。出かけるんだったら、買い出しお願いしてもいいかな?」
秀介は怜南から手を離して、わかりやすく話題を変えた。
話題が変わると、怜南の表情も自然なものになった。怜南は首を縦に振る。
「よし、じゃあメモを取ってくるから、怜南は朝ご飯の続き食べてて」
秀介も二階に行くと、怜南は雨音を聞きながら、コンソメスープを飲んだ。