「でも、どっちにしろ俺は、朝のこと見て、加納さんすごいなって尊敬したよ」
 少し口調を改めて言うと、加納さんはぱちりと瞬きをした。
「尊敬……?」
「うん。花瓶も落書きも本当に悪質だし最低だし、あれくらい言わなきゃあいつら自分のしたことの重大さ分からないと思う。加納さんは一ミリも間違ってない。むしろめちゃくちゃ格好よかったよ。だから自己嫌悪なんてしなくていいよ」
 言ってから、女の子に対して格好いいなんて禁句だっただろうか、と気づいて焦った。でも、彼女は控えめに笑って、
「ありがとう。そう言ってもらえると、ちょっと安心する」
 と言ってくれた。
「……あれであいつらが少しでも反省してくれてたらいいな」
 苦笑いを浮かべてそう呟くと、彼女はすっと笑みを消して、「どうかな」と首を傾げた。
「人の考え方って、なかなか変わらないから……」
 まさかそんな言葉が続くとは思っていなくて、俺は息を呑んだ。てっきり彼女は、本気で怒って彼らを変えようとしたのだと思っていた。
「どんなに必死に自分の考えを訴えても、ちっとも分かってもらえられなかったりする。おんなじ言葉を使ってても、それまでの環境とか生き方とかが違うと、まるで外国語みたいに伝わらないこともある」
 それは確かにそうかもしれない。でも、中学二年生が言う台詞とは思えない。加納さんはやっぱり達観している、と感嘆した。
「人を変えるのって、すごく難しいよ……」
 そうだね、そうかも、と俺は頷く。
 思い返してみると、これまでの人生で、他人を変えたことなんて一度もないと断言できた。自分の親相手でさえ、自分の言葉で考えを変えることなんてできたためしがない。俺はいつも最終的には父さんや母さんの意見に従ってきた。