ヴィンスが立ち上がる。枷が耳障りな音を立てる。彼の顔に、一瞬だけ懐かしさと喜びがよぎった。耳が立ち、尻尾がふわふわと揺れる。しかしそれはすぐにかき消え、瞳から光が失われたかと思うと、唇に嘲笑が浮かぶ。
「へえ、モーリス男爵令嬢ともなれば、こんなオークションに出入りするのも当たり前ということか」
その声音のあまりの冷たさに、駆け寄ろうとしたイヴの足が止まる。鍵を握りしめ、その場に立ち尽くす。
何度か口を開いては閉じを繰り返し、彼女はやっとのことで言葉を紡いだ。
「……違う。ほ、他に欲しいものがあって、来たのも、初めてで」
「で、それを放り出して、昔の友人を買ったというわけか。いいご身分だな」
「それは」
言い返せない。全て事実だからだ。
彼女は俯く。床を見つめ思考をまとめて言うべきことを探す。
ヴィンスが鉄格子に近づきイヴを睨みつけた。瞳孔が収縮し威嚇するように喉が唸る。昔は頭半分ほどの差だったのに今や完全にヴィンスがイヴのつむじを見下ろす格好だった。
「へえ、モーリス男爵令嬢ともなれば、こんなオークションに出入りするのも当たり前ということか」
その声音のあまりの冷たさに、駆け寄ろうとしたイヴの足が止まる。鍵を握りしめ、その場に立ち尽くす。
何度か口を開いては閉じを繰り返し、彼女はやっとのことで言葉を紡いだ。
「……違う。ほ、他に欲しいものがあって、来たのも、初めてで」
「で、それを放り出して、昔の友人を買ったというわけか。いいご身分だな」
「それは」
言い返せない。全て事実だからだ。
彼女は俯く。床を見つめ思考をまとめて言うべきことを探す。
ヴィンスが鉄格子に近づきイヴを睨みつけた。瞳孔が収縮し威嚇するように喉が唸る。昔は頭半分ほどの差だったのに今や完全にヴィンスがイヴのつむじを見下ろす格好だった。