今更ながら相手の心情を考える余裕が生まれてイヴの腕に鳥肌が立った。
 今にも倒れそうになったところで手に冷たいものが握らされる。
 瞬くと、手のひらに三本の鍵が乗っているのが見えた。気づけばそばに公爵の使用人がいてイヴの耳元に顔を近づけている。

「こちら、それぞれ檻、手枷、足枷の鍵となっております。商品を受け取る際にご使用ください」
「は……」

 商品。つまり、イヴの幼馴染であるヴィンス──ヴィンセント=ガルニエのことだ。我に帰って舞台を見ると、そこにはもう檻はなく次の商品が運ばれてくるところだった。
 イヴは立ち上がる。

「すぐに受け取るわ。案内してちょうだい」

 後ろの客からの迷惑そうな視線にも気づかずイヴは使用人に告げる。使用人は恭しく頷き速やかに彼女を大講堂から連れ出した。
 薄暗い廊下を歩き突き当たりの部屋まで案内される。「こちらです」と部屋の鍵を開けた使用人はすぐに姿を消した。
 天井から吊り下げられた燭台の炎が揺れ、イヴの影を不気味に蠢かせる。苦い唾を飲み下し、肺の底まで空気を入れた。視界は明瞭、体にも震えはない。
 彼女は扉を開けた。