イヴは跪き、床に描いた古代文字に触れる。目を閉じ、全神経を集中させて魔力を高める。
 私は奇跡を手にするもの、理を乗り越え、逆転した因果を紡ぎ、妄執の果てに願いを叶えるもの──。
 心の中で呟き魔術式を発動させる。魔法陣が白銀に輝き、この世ならざるものの叫び声が部屋に響き渡り、風が渦巻いてイヴの長い髪を巻き上げた。
 蝋燭の炎が消える。雲が流れて月を覆い隠す。
 暗くなった部屋に淡く光る霞のようなものが漂い始める。それは自在に形を変え、イヴの周囲を取り囲んでいたかと思うと天井に浮かび、やがて人間の姿を取り、魔法陣の中央に降り立たんとする。その爪先が床に触れようとしたとき──。