見間違うはずもない。五年前、不条理に奪われ、そしてイヴがあの夜手に入れ損ねた両親の形見のロケットだった。
 それは記憶よりもくすんだ銀で、楕円形の中央に緑色の輝石が嵌め込まれている。夫人の手のひらで包めるくらいの大きさだった。
 悲願がそこにある。イヴの口の中が乾き、手のひらに汗が滲んだ。
 夫人はそれをイヴの目の前で揺らす。見開かれた彼女の瞳が、吸い付くように動きを追った。

「あなたがこれをお探しと聞きましたの。ご両親の形見なんですって? 親を思う子の愛は感動的ですわね。わた
くし、これをとある伝手から手に入れたはいいものの、もう捨ててしまおうかと思って。わたくしにとってはどこにでもあるロケットなんだもの。でも、あなたに譲ってあげてもよろしくてよ?」
「な──」

 頭にカッと血がのぼる。笑顔をかなぐり捨て、イヴは眉間に皺を寄せた。
 これは明らかに罠だ。しかし、イヴが乗らなければ、夫人はロケットを廃棄するだろう。彼女にとってはイヴを苦しめるためだけの道具に過ぎないのだから。

 隣のヴィンスを見上げる。彼はイヴに視線を送ると、微かに顎を引いてみせた。
 それで心が決まる。イヴは夫人を見据え、口を開いた。

「対価は?」
「あなたの従者をわたくしにくださらない?」

 イヴの肩が震えた。
 ヴィンスは彼女の動きを髪の一筋まで正確に捉えていた。