あのオークションでヴィンスを買おうとした女だ。
 次いでマルセイユ公爵の忠告が耳に反響する。確か名前はリタレイン伯爵、その夫人。
 イヴは出来る限り優雅にドレスの裾をつまみ、片足を引いて淑女の礼をした。

「御機嫌よう、リタレイン伯爵夫人」
「あら、気楽にしてちょうだい。わたくし、あなたに素敵なお話を持ってきたのよ」
「何でございましょう?」

 イヴは礼儀正しく首を傾げ、正確無比な笑顔を向けた。イヴの隣に立つヴィンスは油断なく耳を立て、伯爵夫人を無表情に見下ろす。
 伯爵夫人はヴィンスを横目で見ると、従者の男に手を差し出した。男が恭しい仕草で彼女の手に何かを乗せる。それが何かを認識した瞬間、イヴは息を呑んだ。