「その貴族が俺に飽きれば、また別の貴族の屋敷へ移動した。少しの金と引き換えにな。そのときには、俺という存在の尊厳はなく、ただの商品になっていた。そういう扱いをしていいもの、と定義づけられれば、誰がそれに意志があると思う? 俺はずっと、恥辱に耐え、憎悪を抱えて生きてきた。そうしなければ、とっくに精神が壊れていただろう。そんな奴らを何人も見てきた。そうはなりたくなかった。いつかこんな生活は終わると願って眠った。眠るといつも、楽しかった頃の夢を見たよ。父に仕事のことを教わる夢、母に本を読みかせてもらう夢、家族と食事をとる夢。そして──目を輝かせて魔術を使う女の子の、横顔を眺める夢」
「……え?」

 イヴの喉からか細い声が漏れる。ヴィンスは微笑んでいた。

「俺はずっと、イヴのことが好きだったよ」
「え? え?」
「だから、イヴが俺のことを買ったときは、本当に、憎かった。イヴが多目的用途のために人狼を買うなんて」
「えっ?」
「でも、すぐに一緒にいるのが辛くなった。何をするのかと思えば対等になりたいとか言った挙げ句部屋に引きこもって倒れるまで研究して、観覧車に乗って怖がって腕輪なんかで喜んで。……何も変わっていなかった。俺とは違って」