足音を殺しヴィンスの部屋へ向かう。もしかすると自分を自分で縛っているかもしれない。彼も人狼だ。自分の性質はよく分かっているだろう。
 だが、その予想はすぐに裏切られた。
 角を曲がったところで立ち止まる。暗闇に沈む廊下の先、月明かりの届かない場所に、大きな獣の影が蹲っていた。

「ヴィンス……?」

 そっと囁き、一歩ずつ近寄る。影は動かない。それが気にかかり、自然と足早になった。
 それは黒い毛並みを艶めかせた狼だった。大きさはイヴと同じくらいあるかもしれない。それが廊下に丸まって陣取っている。目蓋は閉ざされ、眠っているようにも思えた。
 寝ているならそれでいい、とイヴが狼の周囲に魔術で囲いを作ろうとしたとき。