人狼が満月の夜にどうなるかなんて子どもでも知っている。イヴは幼い頃、満月の夜にだけは絶対にヴィンスと会ってはいけないと教え込まれた。その夜、人狼は狼に転変し、人間としての理性を失うからと。
　通常、人狼は満月の夜、堅牢な小部屋に閉じこもるか、そうでなければ自ら首枷に繋がれるらしい。そうしなければ狼の本能のままに周囲を傷つけてしまうためだ。人間社会の中で生きていくにはそうするしかないのだろう。人間を守るためだけでなく、人狼自身を守るためでもある。
　イヴは魔術式を発動させ、屋敷の全ての出入り口を封鎖する。念入りに窓ガラスにも強化魔術を付与した。絶対にヴィンスを外に出してはいけない。もしも彼が外の誰かを傷つけたら──きっと彼は、自分自身を許せないだろうから。