あまりにも幸せな日々だった。
 そしてイヴは魔術には長けていたが、その他のことにはとんと無頓着でぼんやりしていた。
 だから気づきもしなかったのだ。
 ──人狼が満月の夜、どうなるかということを。
 その夜。眠り込んでいたイヴは獣の遠吠えで目を覚ました。

「襲撃!?」

 とっさに掛布を足で跳ねのけ屋敷に張り巡らせた魔術式を探知する。しかしそこには何の反応もなく、遠吠えも一度きりであとは静まり返っていた。異変があるとしたら屋敷の内部。
 イヴは寝室を出た。肌身離さずつけている腕輪が窓からの月光を受けて冴え冴えと輝く。それを目にして、彼女は全てを悟った。
 自分の間抜けさに目眩がする。両手で目元を覆い深く嘆息した。崩れ落ちそうな足を叱咤する。