そうして二人は観覧車に乗ることになった。ここの観覧車のカゴは半球の上に屋根が吊るされている形で少しの風でも揺れる。地上を見下ろすと目眩がするほど遠く、遮るものは何もない。しかもカゴが小さいので二人は膝を突き合わせる格好となった。

「昔はもっと広かった気がするわ」
「子どもだったからだろ」

 地上で係員に見送られ、二人を乗せたカゴはだんだん上昇していった。今日は風が強く髪が吹きさらわれる。
 何気なく地上を見下ろすとおもちゃ箱をひっくり返したような景色が広がっていた。

「いや、結構怖いわね」
「泣きついてもいいぞ」

 ふざけたように両腕が広げられる。イヴは飛び込みたい衝動を抑えて膝の上で拳を握った。

「しない……私は魔術師。いざ落ちても地面を柔らかくすることができる……」
「イヴは魔術師だろ。飛んだりしないのか?」
「生きている人間に魔術をかけることは本当に難しいのよ。生命活動と魂のうねりが複雑すぎて手に負えないし魔術式と対象の魔力が反発すると対消滅を起こしかねないし腕の一本くらいは簡単に吹き飛ぶの」

 ヴィンスが肩を震わせて笑う。その響きがあまりにも楽しそうだったので、じろりと睨み上げた。

「私が怖がってるの、楽しい?」
「そうじゃない。子どもの頃も全く同じことを言っていたのを思い出したんだ。……本当に変わらないな」

 噛み締めるように言う。イヴは目を瞬かせた。
 そうか、彼はそんな風に思っていたのか。

「ヴィンスも、そんなに変わらないんじゃない?」
「……そう見えるか」
「私には同じように感じるわ。一緒にいて、居心地が良くて」
「……そうか」

 彼は尻尾を一振りして横を向いて景色を眺め始めた。イヴも逆の方に顔を向け小さく口を開く。

「そうじゃなきゃ」

 風にかき消されるくらいの吐息で囁いた。

「私がずっと、あなたに恋しているわけないもの」