彼の声が朗々と響き渡り舞台端から商品が運ばれてくる。客人たちが身を乗り出す。最初の品は小さな鳥籠に入れられた美しい少女だった。その背中からは羽が生え、一目で妖精だと分かる。その羽が震えるたびに金色の鱗粉が周囲に舞った。
 公爵の説明が始まる。

「こちらは西方の国から買い求めました、花の妖精にございます。どうやって入手したかはもちろん内緒。本物だということだけは保証いたします。観賞用に愛でるもよし、魔法薬の材料にするもよし。はたまたロマンスに耽るのもよし。さあ、金貨一万枚からどうぞ」

 客人たちが次々と手を挙げる。価格はみるみるうちに釣り上がり、あっという間に五万枚まで到達した。
 イヴは手持ちの資金に思いを馳せる。今回彼女は金貨五万枚を用意した。欲しいものは形見だけ、しかもそれもここではとりわけ珍しいというほどのものではない。そう思って十分と判断したのだが、ここに集まっている人間たちは珍し物好きの酔狂な金持ちばかりだ。競りがどう転ぶか分かったものではない。手のひらに滲む汗をドレスで拭い、彼女は舞台に意識を戻した。
 妖精は金貨八万枚で競り落とされた。客席の中央に座る髭を蓄えた男が買主となったようだ。公爵家の使用人が影のように男の元へ歩み寄り小さな鍵を手渡していた。あの鳥籠の鍵だろう。
 大丈夫。イヴは自分に言い聞かせる。競りの初めにはある程度の目玉を持ってきて、盛り上げるのが鉄則なのだから。でももし駄目だったらこれからどうすべきだろうか。
 ぐるぐると渦巻く思考で、早くも最悪の事態を考え始める。
 オークションは次々と進んでいく。幸いにも彼女の予想した通り、妖精を上回る商品はなかった。
 舞台に引き出されるのは、例えば純銀の長剣。ただし肘のあたりで断ち切られた太い腕が柄をがっちりと握りしめており、切断面から今も流れ出る真っ赤な血が、刃を汚していた。

「こちらは北の国から買い求めました、選定の剣でございます。真の勇者のみが引き抜けると謳われた剣を、勇者の腕ごと提供することで皆様にお届けすることが可能となりました。さあ、金貨千枚からどうぞ」

 公爵の言葉に客席が笑いにさざめく。長剣は金貨九千五百枚で落札された。

 ほらね、大丈夫じゃない。イヴは余裕を取り戻し背中を椅子に預けた。腕を組んで舞台を睥睨する。そろそろ私の目当てが出品されても良いはずだけれど。いや、この比較的安価な面白商品の流れに乗って来るに違いないわ。きっと次に来るに決まっている。来なさい!
 半ば祈るような気持ちで悲鳴を上げたとき、舞台に次の商品が運ばれてきた。