一通り古書店をめぐり、購入した書籍を家に送ったところでヴィンスが「あ」と声をあげた。

「どうかした?」
「いや……移動遊園地が来ていると思ってな」

 彼の視線の先には広場を借り切って展開されるカーニバルがある。色とりどりの屋台が立ち並び、その奥に回転木馬やショーを催す舞台、コースターなどの遊具が設えられていた。特に目を引くのはゆっくりと回る巨大な観覧車だ。どれも楽しそうに笑い声を上げる人々で賑わっている。
 ヴィンスは目元を和ませる。

「昔、イヴと行ったな。観覧車に乗ってるときには怖がって、泣きついてきた」
「覚えてるわ」

 小さく笑みが溢れる。まだほんの子どもで、観覧車から見る景色はずいぶんと遠く感じられたのだ。それに観覧車は地上に戻るまで二人きりでいられるのが嬉しかった。
 イヴはヴィンスを見上げた。

「せっかくだし寄りましょう。今はもう怖がらないし」
「本当か? また泣きついてきても知らないぞ」

 意地悪げに言うヴィンスに彼女は微笑んだ。

「そんなことしない……絶対に」

 子どもの頃のように無邪気に触れることは、もうできないのだから。