「イヴ、平気か?」
 ヴィンスが気遣わしげに問う。イヴは顔を上げた。

「えっと、今の話、聞こえてた……?」
「当然だろ。向こうもそれは織り込み済みじゃないのか」
「それはそうよね……」

 彼女は頭をかき思考を巡らせる。公爵の意図は置いておいたとしても、リタレイン伯爵夫人の動向には注意しなければならない。両親の形見を購入したのは明らかにイヴへの意趣返しだからだ。何を仕掛けてくるか分からない。

「とりあえず、屋敷の防衛魔術式でも強化しておくわ……」
「もう、今日は帰るか?」
「いや、家にいると余計に塞ぎ込む気がするわ! こういうときこそ楽しいことをしないと!」

 無理やりに笑顔を作りイヴはヴィンスの手を引いた。

「とりあえず私の行きつけの古書店へ行きましょう。その後は、そのときに考えるわ」

 彼は何かいいたげに口を開いたが、結局、曖昧に笑って頷いた。