次の日。
 王宮の前で、イヴは伸びをしていた。一面に澄んだ青が広がる空を見上げ、イヴは目をすがめる。顔つきは清々しく、足取りは軽かった。
 出仕の帰りである。

「嫌な用事を済ませたあとの日光は最高ね。それ以外では浴びたくもないけど」
「もっと外に出たらどうだ?」
「絶対に、い、や」

 ヴィンスが呆れたように肩をすくめる。その二人に、声をかける男がいた。

「これはこれは、イヴ様ではないですか」
「ヒッ!」

 イヴは甲高い悲鳴をあげ、びくりと体を震わせる。振り返ると、山羊角の紳士、マルセイユ公爵がにこやかに立っていた。

「ご、ご機嫌よう」
「ええ、ご機嫌よう。魔術式の献上日ですか?」
「そ、そうです。ご存知だったんですか」
「いえ、あなたはそれ以外で外出することはありませんからね」
「そうですね……?」

 公爵の意図が分からず、イヴの視線が中空を彷徨う。他人と話すことは嫌いだし、言葉の裏を読むことも苦手だった。
 公爵は柔和に微笑み、ちらりとイヴの後ろに立つヴィンスに目をやった。

「先日、大きな買い物をしたと聞きましたが」
「えっ? なんですか?」