目を丸くして彼を見上げる。本当に意味が分からなかった。一体何を気にしているのか。
 彼は口元を手で覆い、しばし黙りこくっていた。
 やがて手を離し、目を細めてイヴを見つめる。

「俺には、王都のことはよく分からない。だから、イヴのよく行く場所に行きたい」
「私の? いいけど、古書店とか魔法薬の材料とかを買うだけのつまらない一日になるわよ」
「それがいいんだ」
「ならいいけど……」

 イヴは口をつぐんだ。かつてモーリス男爵家と親しかったはずのヴィンスが、なぜ王都に詳しくないのか。なぜ闇オークションに出品されていたのか。想像はつきそうだったが、本人がいないところで勝手に考えるのも気が引けた。いつか、彼が話してもいいと思ったときに話してくれればいいし、そんなときが永遠に来なくても構わない。
 とにかく今は、明日を乗り越えることだけを考えよう。
 イヴは体を横たえ、眠りに落ちた。