静かな口調だった。だから、イヴも気負うことなく答えられた。

「うん。それに、これは一族の悲願だから」
「──それなのに俺をわざわざ買ったのか」

 質問が胸に突き刺さる。イヴを凝視するヴィンスの瞳は、瞳孔が収縮し、琥珀色が濃くなっていた。彼の眼差しの前では、どうしても嘘はつけなかった。

「……ヴィンスのいう通りよ」
「なぜだ」

 イヴは固く目を瞑る。それだけは言いたくなかった。
 部屋に沈黙が満ちる。やがて、彼の耳が垂れた。

「……単純な憐憫じゃないことはよく分かった。今まで、八つ当たりして悪かった」
「そんな、八つ当たりなんかじゃない。ヴィンスの怒りは、当然のことだと思う」

 ぱっと目蓋を上げ、必死に言い募る。彼は薄く笑うだけで、返事をしなかった。
 と、彼はシャツのポケットから、一通の手紙を取り出した。

「そういえば、イヴが眠っている間に、王宮からの呼び出し状が来ていた」

 イヴの顔が青ざめる。手紙の封蝋には王家の紋章。一月に一度、発明した魔術式の献上のために、王宮へ赴かなければならないのだ。

「し、しししまった。届いたのはいつ?」
「三日前」
「ちょ、ちょっと貸して」

 手紙を受け取り、封筒を破って中身を取り出す。そこには、四日後、王宮に来るようにとの命令が書かれていた。つまり明日、王宮に出仕しなければならないのだ。

「あっぶない! え? 明日? 今日やっと復活したところなのに?」
「八割は自業自得だろ」
「十割自業自得よ! ああ、外出なんて本当に嫌。配送すればいいのに……そのための魔術式だって開発したのに……」
「とりあえず明日に備えて早く休んだらどうだ? 俺に何かやれることがあるならやっておくが」
「そうね……あ、せっかく王宮まで行くんだし、どこか寄りたいところがあれば考えておいて。一緒に行きましょう。どうせ用事はすぐに済むから」
「待て、俺も行くのか」

 唖然としたようなヴィンスの声に、彼女は頷いた。

「そ、そのつもりだったけれど……嫌なら無理にとは言わないけれど……」
「嫌ではないが……俺と並んで歩いていいのか?」
「何か問題が?」