イヴは首を傾げる。

「そうね。この気質は変わらないから」
「……前にも、書庫で倒れているイヴを見つけたことがあった。あのときはすぐに目を覚ましたが、今回はそうじゃなかった」

 ヴィンスが震える声で呟く。

「もう八日も眠っていた。目覚めないかと思った……」
「ご、ごめんなさい。研究に夢中になっていて……」

 思ったより快復に時間がかかったようだ。確かに魔力が空になるまで研究に盲目になったことはない。いつもならある程度まで衰弱が進行すると、自分で気づいて休息に入ることができるのだ。体が衰えれば集中力も落ちる。限界まで体を酷使するより、一定程度の休憩を取ったほうが効率的だ。
 本当は、今回だって何度も休もうと思った。
 視界が霞んで本の題名が読めなくなったとき。
 文章の意味が理解できなくなったとき。
 軽いはずの羽ペンがやけに重く感じたとき。
 それでも現実に戻らなかったのは。
 イヴは両手を握りしめる。左手の中指の先に、べったりとインクの染みが付いていた。
 ヴィンスが重く息を吐いた。

「……今回は、俺のことがあって、現実逃避のために魔術の研究をしていたんだろ」

 その言葉が背中にのし掛かったようにイヴはうなだれる。その通りだった。
 彼と対等でいたくて、彼を自由にしたくて、そのために最も邪魔なのは自分自身なのだ。
 言い訳がましく舌を動かす。

「……そ、それもある。だけど、この研究はどうしても成し遂げたいものなのよ」

 ヴィンスが壁に設置された本棚に目をやった。様々な書物が隙間なく棚を埋めている。研究室にも書庫にも収まらない本たちが寝室まで侵食していた。

「一体、何の研究をやっているんだ」