「え……?」

 ろくに水分をとらずにいた喉は干からび、声は掠れきっていた。
 飲食を忘れて没頭していたことによる栄養失調だ。昔からよくあることだった。
 問題ない。緊急用の自立魔術式を発動させれば、自動で食事が運ばれ、喉に流し込まれる。
 大丈夫。私はずっと一人でやってきたのだから。
 心の中で呟いて、魔術を発動させようとしたとき、すでに体内の魔力が尽きていることを察知した。衰弱が進みすぎたのだろう。魔力が生成できないほど体が弱っているのだ。
 魔力がなければ魔術式を発動できない。
 魔術式を発動できなければ、食事をとれない。
 つまり、イヴはこのままここで餓死することが決定した。
 それでも彼女は賭けに出ることにした。屋敷全体にかけた防音魔術を解除し、微かに囁く。

「……ヴィンス、助けて」

 そのまま椅子から崩れ落ち、床からそびえる書物の塔に突っ込んだ。