体内の魔力を魔術式に流し込んで奇跡を起こす。そのためには必ず現実をねじ曲げるという強固な意思と、何を犠牲にしても奇跡を手にしたいという傲慢にして苛烈な希求が求められる。モーリス家の者が基本的に自己中心的で外界との関わりを断ちがちなのは、このせいもある。
 だから、イヴは没入した。
 自室の窓からの景色が青空になろうと曇天になろうと朝になろうと夜になろうと、たとえ世界が終わっていようとも。
 ひたすらに自己の世界に埋没し、外のあらゆる情報から目をそらし耳を塞いだ。
 時折、研究室の扉の外に誰かが訪れてはノックをするか逡巡し、結局垂れた尾を振って帰っていくことも。
 広い屋敷が掃き清められ、過ごしやすいように整えられていくことも。
 二人きりの屋敷でイヴが一人でいるなら、もう一人もまた、一人ぼっちなのだということも。
 何も気がつかないで日々を過ごした。
 そうしてある日、体が動かないことに気づいた。書物と書き物の散乱した机の上に突っ伏して、羽ペンを握った手がだらりと垂れ下がる。