イヴはしょんぼり肩を落とす。読書に夢中になりすぎて時間を忘れるどころか約束を破るのが彼女の悪い癖だった。その上それを矯正するつもりもなかった。彼女は貴族であり、モーリス家の次期後継者であり、この屋敷では優先されるべき存在だ。しかも魔術を司ることで爵位を得ているモーリス家にとって魔術の研究は何よりも尊ばれる事項だったため、両親も彼女の行動を許していた。というよりも、彼らにもその性質があったため、気に求めていなかったというのが正解だが。
 しかしイヴは変わろうとしていた。ヴィンスとの約束を破り、彼といられる時間が減るのは嫌だったのだ。
 それがどうしてなのか、そのときには分からなかったけれど。
 ヴィンスは微笑み、イヴの手を取った。

「早く行こう。遊園地、楽しみにしていただろ」
「う、うん!」

 本当に楽しみにしていたのは、単純に彼とともにいることだけだったけれど、イヴは大きく頷いた。