あなたのことが好きだから。それだけは絶対に言ってはならない言葉だった。自分を買った人間にそう言われて、拒める者がどれだけいるだろう。ヴィンスの所有権と引き換えに、イヴの恋は永遠に、出口を失ったのだ。
 黙り込んだ彼女に、ヴィンスはつまらなそうに鼻を鳴らした。ゆっくりと離れぶっきらぼうに吐き捨てる。垂れた尾が床を撫でた。

「まあ、何を考えていたとしても俺には関係のないことだ」

 イヴはうなだれて首を振った。何を言っても裏目に出る気がした。無言のまま檻の鍵を開け、彼に鍵を差し出した。

「……自分で開けろということか?」

 頷く。せめてそれくらいはさせてあげたかった。自分を縛める鍵を、自分で開けることくらいは。
 彼は眉を寄せ、イヴから鍵を受け取る。初めに足枷を外し、手枷の鍵穴にも器用に鍵を突っ込んだ。
 もはや用をなさなくなった枷が床にぶつかる。ごとん、と鈍い音がした。
 ヴィンスは自由になった両手を開いたり握りしめたりしながら、檻を出た。