ある日を境に、子供がなかなか帰ってこなくなった。
連日遅い時間に帰ってくる子供が心配になった家族は「何かあったのか?」と優しく問いかけた。しかし、子供は「何もなかった。夢中になって遊んでいただけ」と一点張りで、話そうとしない。
気になった私は、家族の目を盗んで子供の通っている学校へ向かった。妖狐である私にとって、人間を騙すことなど簡単だった。
学校の校舎の裏側でようやく子供を見つけて近寄ろうとして踏み止まった。見れば大人数の人間に囲まれ、子供は袋叩きにあっていたのだ。
ああ、なんて醜いんだろう。
長年、人間という生きものを見続けてきたが、争いほど醜いものなどない。
妖怪こそ力でねじ伏せることが多いが、それは無知な妖怪が多い中で、手っ取り早い方法で力関係を明確にしやすいからこそだ。
しかし、人間には妖怪に比べてはるかに知識があり、何より言葉が、感情がある。こんな拳をぶつけるような争いなんてしなくても、話し合いで解決できる。できるはずなのだ。
妖怪として、私は子供たちの様子を見守るべきか、割り込むか悩んだ。生きる存在が違う。簡単に割り込んではいけない。――しかし、見えてしまったのだ。
囲まれた中心で蹲る子供が何か抱えているのを。
それが、妖狐の子供であることを。
――よくも、私の仲間に手を出したな。
私は本来の姿に戻って子供と妖狐の前に立つと、いくつもの青白い鬼火を出してその場にいる人間を逃さぬよう、ぐるりと囲う。
――人間の癖に妖怪に手を出すとは、随分大きく出たじゃないか。
「うわあああ!」
「ば、ばけもの!」
「そいつが悪いんだよ! 金にする予定の狐の化け物を、盗んだそいつが!」
人間の言い分を聞いて呆れてしまった。妖怪とはいえ、同じ命だ。命を売ってまで金が欲しいか確かに、何百年前は家畜の肉を食べることは無かったな、と思い出すも、すぐに人間に目を向ける。
すると子供が私の着物の裾を引っ張ると、小声で聞いてきた。
「ねぇ、僕も鬼火を出せる?」
――は?
「僕が出せたら、この人たちは黙ってくれると思うんだ」
根拠がなく、解決にもならない話だった。仮に子供が鬼火を出したところで、今後虐げられて生きることになるのは自分だ。
――そんなことより、もっと良い方法があるわ。
連日遅い時間に帰ってくる子供が心配になった家族は「何かあったのか?」と優しく問いかけた。しかし、子供は「何もなかった。夢中になって遊んでいただけ」と一点張りで、話そうとしない。
気になった私は、家族の目を盗んで子供の通っている学校へ向かった。妖狐である私にとって、人間を騙すことなど簡単だった。
学校の校舎の裏側でようやく子供を見つけて近寄ろうとして踏み止まった。見れば大人数の人間に囲まれ、子供は袋叩きにあっていたのだ。
ああ、なんて醜いんだろう。
長年、人間という生きものを見続けてきたが、争いほど醜いものなどない。
妖怪こそ力でねじ伏せることが多いが、それは無知な妖怪が多い中で、手っ取り早い方法で力関係を明確にしやすいからこそだ。
しかし、人間には妖怪に比べてはるかに知識があり、何より言葉が、感情がある。こんな拳をぶつけるような争いなんてしなくても、話し合いで解決できる。できるはずなのだ。
妖怪として、私は子供たちの様子を見守るべきか、割り込むか悩んだ。生きる存在が違う。簡単に割り込んではいけない。――しかし、見えてしまったのだ。
囲まれた中心で蹲る子供が何か抱えているのを。
それが、妖狐の子供であることを。
――よくも、私の仲間に手を出したな。
私は本来の姿に戻って子供と妖狐の前に立つと、いくつもの青白い鬼火を出してその場にいる人間を逃さぬよう、ぐるりと囲う。
――人間の癖に妖怪に手を出すとは、随分大きく出たじゃないか。
「うわあああ!」
「ば、ばけもの!」
「そいつが悪いんだよ! 金にする予定の狐の化け物を、盗んだそいつが!」
人間の言い分を聞いて呆れてしまった。妖怪とはいえ、同じ命だ。命を売ってまで金が欲しいか確かに、何百年前は家畜の肉を食べることは無かったな、と思い出すも、すぐに人間に目を向ける。
すると子供が私の着物の裾を引っ張ると、小声で聞いてきた。
「ねぇ、僕も鬼火を出せる?」
――は?
「僕が出せたら、この人たちは黙ってくれると思うんだ」
根拠がなく、解決にもならない話だった。仮に子供が鬼火を出したところで、今後虐げられて生きることになるのは自分だ。
――そんなことより、もっと良い方法があるわ。