主語も何もない、全く意味不明な日本語だった。

「今週末、笠木さんと美容室に行って髪を染めることにしたのですが、何色がいいのか迷ってまして」

説明してすぐに気付いた。

校則違反をしようとしていることを、話してしまった。

そのせいだろうが、由依ちゃんは答えに迷っている。

「えっと、毛先だけで、すぐに切るつもりで……その……」

どう言えばいいのかわからない。言葉が出てこなくなって、口を閉じてしまった。

「なるほどね。そっか……何色がいいんだろう。明るい色がいいと思うけど……ちょっとクールな感じも似合いそう」

さっきの戸惑いが嘘のように由依ちゃんは話してくれる。

「でも、円香ちゃんが髪染めたところを見れるのって、笠木くんだけ?」

由依ちゃんは不満そうに私を見てくる。

「えっと、写真、送りますか……?」
「違うよー」

それ以外に方法が思いつかなくて、首を傾げる。

「私とも遊ぼうよ。それとも、忙しい?」
「いえ、まさか。私なんかと遊んでくださるのですか?」

友人ができたこと自体が初めてな私にとって、誰かと遊びに行くという発想がなかった。

由依ちゃんはくすくすと笑っている。

「相変わらず面白いね、円香ちゃん。友達なんだから、遊ぼうよ」

それから瑞希ちゃんも加わり、日曜日に遊びに行くことになった。



金曜日の放課後、校門で笠木さんを待つ。

月曜日のように、待っていることに変わりはないのに、来るとわかっていて待つのは、なんだか楽しい。

「……なに笑ってんだ」

笠木さんは不審者でも見るような目をしている。

たしかに、一人でいて笑っていたら不審者に思われるかもしれない。

でも、笠木さんともっと長く一緒にいられるのだから、頬も緩んでしまう。

「じゃあ、行くか」
「はい」

歩き始めた笠木さんの隣に駆け寄る様は、我ながら犬のようだと思った。

笠木さんも同じように思ったのか、口角を上げた。

「色は決めたか?」
「決まりませんでした……」

あれから瑞希ちゃんにも聞いてみたけど、どれもピンと来なかった。

「笠木さん、決めてください」

そう言うと、笠木さんは顔を顰めた。

「俺が?それじゃあ意味ないだろ。お嬢様が染めたいんだから、お嬢様の好きな色じゃないと」
「笠木さんが決めてくれた色がいいのです」

被せ気味に言ってしまった。

笠木さんを困らせるとわかっていたけど、それが本音だった。