玲生さんがどうしてそう言っていたのかは知っているから、そこはあまり気にならない。
だけど、手術できると知ったときからそう言っていたとは、思っていなかった。
「私がどれだけ説得してもしないって言い張ってたのに、円香ちゃんと過ごすだけで変わるとは思わなかったな」
恵実さんと目が合う。
「円香ちゃん、本当にありがとう」
恵実さんは目に涙を浮かべて笑う。
「いえ……私は私のやりたいと思ったことをしただけです」
玲生さんのお見舞いに行っていたのは、私が会いたかったから。玲生さんに手術をしてほしいと説得したのは、もっと玲生さんと過ごしたかったから。
本当に、全て私のわがままだ。
「円香ちゃんのおかげだよ。これからも玲生のこと、よろしくね」
恵実さんはアルバムを床に置くと、両手で私の手を握った。私は返事をする代わりに、優しく握り返した。
◇
恵実さんに料理を教わって、五日が過ぎた。私の荷物はなかなか片付かなくて、まだ引っ越すことはできていなかった。
あんかけ焼きそばは、毎日のように奈子さんの家を訪ね、練習を繰り返している。
食材を切るレベルが上がっても、恵実さんが目分量でやっていた部分が結構難しく、安定した味にならない。
今日は奈子さんの家の片栗粉を使い果たしたため、それの買い出しをして家に向かっていた。
その途中、ポケットに入れていた電話がなった。足を止めてスマホを取り出すと、電話の相手が玲生さんであることがわかる。
滅多に電話をかけてくることのない相手からで、少し戸惑いながら応答の方向にスライドし、耳に当てる。
「もしもし、玲生さん?なにか……」
「円香ちゃん?」
私の言葉を遮るように名前を呼んだのは玲生さんではなく、恵実さんだった。電話をかけてきたのは、恵実さんだったようだ。
「恵実さん?どうかしましたか?」
「あのね、円香ちゃん……落ち着いて、聞いてね」
恵実さんが深呼吸する音が聞こえる。
「玲生の容態が悪化して、今手術室に運ばれたの」
「……え……」
ビニール袋が手からすり落ちる。
玲生さんが……?どうして……
昨日も元気だったのに、どうして急に……
恵実さんが続けて説明していたけど、全く頭に入ってこなかった。
気付けば私は、病院に向かって走り出していた。
だけど、手術できると知ったときからそう言っていたとは、思っていなかった。
「私がどれだけ説得してもしないって言い張ってたのに、円香ちゃんと過ごすだけで変わるとは思わなかったな」
恵実さんと目が合う。
「円香ちゃん、本当にありがとう」
恵実さんは目に涙を浮かべて笑う。
「いえ……私は私のやりたいと思ったことをしただけです」
玲生さんのお見舞いに行っていたのは、私が会いたかったから。玲生さんに手術をしてほしいと説得したのは、もっと玲生さんと過ごしたかったから。
本当に、全て私のわがままだ。
「円香ちゃんのおかげだよ。これからも玲生のこと、よろしくね」
恵実さんはアルバムを床に置くと、両手で私の手を握った。私は返事をする代わりに、優しく握り返した。
◇
恵実さんに料理を教わって、五日が過ぎた。私の荷物はなかなか片付かなくて、まだ引っ越すことはできていなかった。
あんかけ焼きそばは、毎日のように奈子さんの家を訪ね、練習を繰り返している。
食材を切るレベルが上がっても、恵実さんが目分量でやっていた部分が結構難しく、安定した味にならない。
今日は奈子さんの家の片栗粉を使い果たしたため、それの買い出しをして家に向かっていた。
その途中、ポケットに入れていた電話がなった。足を止めてスマホを取り出すと、電話の相手が玲生さんであることがわかる。
滅多に電話をかけてくることのない相手からで、少し戸惑いながら応答の方向にスライドし、耳に当てる。
「もしもし、玲生さん?なにか……」
「円香ちゃん?」
私の言葉を遮るように名前を呼んだのは玲生さんではなく、恵実さんだった。電話をかけてきたのは、恵実さんだったようだ。
「恵実さん?どうかしましたか?」
「あのね、円香ちゃん……落ち着いて、聞いてね」
恵実さんが深呼吸する音が聞こえる。
「玲生の容態が悪化して、今手術室に運ばれたの」
「……え……」
ビニール袋が手からすり落ちる。
玲生さんが……?どうして……
昨日も元気だったのに、どうして急に……
恵実さんが続けて説明していたけど、全く頭に入ってこなかった。
気付けば私は、病院に向かって走り出していた。