一生の別れみたいな手紙。


俺はそれを握りつぶした。


ばあちゃんにイラついたわけじゃない。


ばあちゃんに心配かけて、ボケたふりをさせてしまった自分自身に腹が立った。
もっと言えば、俺を思ってやっていたばあちゃんをウザったいと思っていた自分が嫌になった。


俺はその手紙を持って、病院に向かった。


ばあちゃんの病室のドアを勢いよく開ける。


「ばあちゃん!」
「叶人?そんなに急いで、どうしたの?」


起き上がっていたばあちゃんは、驚いたあとに優しく微笑みかけてくれた。


「……これ」


手紙を見せると、ばあちゃんは目を伏せた。


「見つけたんだね。あそこは誰も触らない、とっておきの隠し場所だと思ったんだけどね」
「どうしてこんな手紙書いたんだよ。なんでもう別れるみたいなふうに」


怒鳴ってしまいそうになるのを、必死にこらえる。


「……いつまでも、私の世話をさせるわけにはいかないと思ったの。叶人には未来があるし、私のせいで可能性を狭めてほしくない」
「なんでそこまでして俺のこと……」


ばあちゃんは手招きで俺を呼んだ。
近付くと、すぐそこにあった丸椅子に座らされた。


そしてばあちゃんは俺の頭に手を置いた。


「大事な孫だからだよ。叶人は、私の宝物だ」


泣きそうになった。
親にもそういうことを言われたことがなかったから。


「……ばあちゃん、俺……ばあちゃんと暮らすこと、嫌じゃないよ」


すると、ばあちゃんは俺から手を離した。
ゆっくりとばあちゃんを見ると、ばあちゃんは本当に嬉しそうにしている。


「だからもう……俺に気を使って、ボケたふりしなくてもいいから」
「そうだね。じゃあ、退院したら、ばあちゃんがご飯作ってあげようね」


子供扱いされたような言い方は嫌だったけど、初めてばあちゃんと本当に会話ができた気がして、なんだか嬉しかった。