ほっとした途端、油断していた飛田の頭に、対戦していた相手の拳が当たる。ユキに気を取られすぎて忘れていたと気づき、慌てて向き直った。
「野郎、舐めんなよ」
頭にきて思い切り殴り飛ばすと、相手は呆気なく倒れた。
「ふん」
相手が沈んだのを確認してもう一度振り向くと、丁度高山が対戦相手を打ち倒した所だった。ドスンと大きな音を立てて男が沈む。それを見届け、やれやれと息をついた。
「お前(高山)、俺らが行くまで待っとれと言うたやろ、なんで戻って来た!」
そこでいきなりユキが怒鳴る、だが高山はまるで動じず待ってろと言われて、はいそうですかと引っ込めないだろうと答える。気持ちはわかるが、言うとおりにしてもらわねば、こっちが困る。今の自分では、不慮の事態に対応できない。
「俺らはお前を助けに来たんや、そのお前が逃げんでどうする、無駄足さすなと言うたはずやで!」
「まあそう言うな、結果的には助かっただろ」
ユキの剣幕に見かねて飛田も口を挟む。それがまた癪に障ったのだろう。彼女はお前らが来なくても、一人で片付けられたと怒鳴り返す。すると飛田は、そうとも言いれないだろ、実際、さっき押されてたじゃないかとさらに言い返す。それはその通りなので、反論が出来ないらしい、ユキもムッとした表情で口を噤んだ。
飛田はやれやれと肩を竦め、浅いため息を吐いた。ユキとしても、子供じみたことを言っているとわかっていたので、気まずく視線を逸らせ、倒れている男たちを見つめた。細かいことに拘っている場合ではない。
「まあええわ、あんたら、ちっと後ろ向いとけ」
「なんだ、どうする気だ?」
「止めを刺す、素人は見んほうがいい」
飛田と高山が倒した相手は、まだ息がある。生きていられては不味いので殺すのだと宣告すると、今までぐったりしていた高山は、ギョッとした表情で顔を上げた。なにも殺すことはないだろうという顔だ。
だがそこは飛田が制した。
自分らは顔を見られている、ここで息の根を止めておかなければ、追っ手は必ずやってくる。これはもう高山一人の問題ではない、殺らなければ自分たちの安全も保障されない。
そう話すと、高山も渋々と黙った。
***
全てを片付け、車に戻ると、散々痛めつけられたのだろう高山は、さすがに力尽きたらしく、ぐったりとしていた。いいからそこに寝てろと後部座席に横たわらせ、飛田が運転席、ユキが助手席に入り込む。
だが、すぐに寝入るだろうと思われた高山は、傷だらけでふらつきながらも、瞳を開き、ユキを見ていた。
「あんた、何者だ?」
「俺か? まあ誰でもいいやんか、気にせんとき」
問われたユキは軽く答える。しかしその返事は高山のお気に召さなかったらしい、珍しくムッとした表情になった。
「なぜ俺の名を知ってる? どこかで会っていたら俺が覚えていないはずがない、会ったことはないはずだ」
「拘るな、つうか、助けたったんに、文句言われたないで」
助けられて文句を言うなとユキが振り向く。すると高山は、気まずそうに視線を逸らせた。心なしか、その頬は紅潮しているように見える。
それを見て、ユキも暫し絶句したが、ルームミラーでそれを見ていた飛田もギョッとする。高山のそんな顔を見たのは、初めてだ。
「野郎、舐めんなよ」
頭にきて思い切り殴り飛ばすと、相手は呆気なく倒れた。
「ふん」
相手が沈んだのを確認してもう一度振り向くと、丁度高山が対戦相手を打ち倒した所だった。ドスンと大きな音を立てて男が沈む。それを見届け、やれやれと息をついた。
「お前(高山)、俺らが行くまで待っとれと言うたやろ、なんで戻って来た!」
そこでいきなりユキが怒鳴る、だが高山はまるで動じず待ってろと言われて、はいそうですかと引っ込めないだろうと答える。気持ちはわかるが、言うとおりにしてもらわねば、こっちが困る。今の自分では、不慮の事態に対応できない。
「俺らはお前を助けに来たんや、そのお前が逃げんでどうする、無駄足さすなと言うたはずやで!」
「まあそう言うな、結果的には助かっただろ」
ユキの剣幕に見かねて飛田も口を挟む。それがまた癪に障ったのだろう。彼女はお前らが来なくても、一人で片付けられたと怒鳴り返す。すると飛田は、そうとも言いれないだろ、実際、さっき押されてたじゃないかとさらに言い返す。それはその通りなので、反論が出来ないらしい、ユキもムッとした表情で口を噤んだ。
飛田はやれやれと肩を竦め、浅いため息を吐いた。ユキとしても、子供じみたことを言っているとわかっていたので、気まずく視線を逸らせ、倒れている男たちを見つめた。細かいことに拘っている場合ではない。
「まあええわ、あんたら、ちっと後ろ向いとけ」
「なんだ、どうする気だ?」
「止めを刺す、素人は見んほうがいい」
飛田と高山が倒した相手は、まだ息がある。生きていられては不味いので殺すのだと宣告すると、今までぐったりしていた高山は、ギョッとした表情で顔を上げた。なにも殺すことはないだろうという顔だ。
だがそこは飛田が制した。
自分らは顔を見られている、ここで息の根を止めておかなければ、追っ手は必ずやってくる。これはもう高山一人の問題ではない、殺らなければ自分たちの安全も保障されない。
そう話すと、高山も渋々と黙った。
***
全てを片付け、車に戻ると、散々痛めつけられたのだろう高山は、さすがに力尽きたらしく、ぐったりとしていた。いいからそこに寝てろと後部座席に横たわらせ、飛田が運転席、ユキが助手席に入り込む。
だが、すぐに寝入るだろうと思われた高山は、傷だらけでふらつきながらも、瞳を開き、ユキを見ていた。
「あんた、何者だ?」
「俺か? まあ誰でもいいやんか、気にせんとき」
問われたユキは軽く答える。しかしその返事は高山のお気に召さなかったらしい、珍しくムッとした表情になった。
「なぜ俺の名を知ってる? どこかで会っていたら俺が覚えていないはずがない、会ったことはないはずだ」
「拘るな、つうか、助けたったんに、文句言われたないで」
助けられて文句を言うなとユキが振り向く。すると高山は、気まずそうに視線を逸らせた。心なしか、その頬は紅潮しているように見える。
それを見て、ユキも暫し絶句したが、ルームミラーでそれを見ていた飛田もギョッとする。高山のそんな顔を見たのは、初めてだ。