お母さんの退院日、一人で準備できるわけなくて、奏良を呼び出した。


「今日はお母さんが帰ってくる日なのに、俺が来てもいいの?」


そう言いながら、料理の下ごしらえをしている。


だけど、今日は奏良の背中を見て料理の完成を待っていてはいけない。


「今日は、私も手伝う」
「なるほど」


奏良は包丁を置き、一歩下がった。


「俺は見守るために呼ばれたんだね?」
「……あと、今までご飯作ってくれてたお礼」


奏良に対しては、なぜか素直に言うことができた。
それでも、恥ずかしいことに変わりはなくて、少しだけ顔が熱かった。


何度も練習してきた成果か、初めてのときよりも綺麗に切れた。


「おお、上達したね」


私の後ろに立って、見下ろしてきた。


「みそ汁は私が作るけど、それ以外は奏良が作ってよ」
「結局そうなるんだね。大地たちが帰ってくるのは何時?」
「十一時」


私が答えると、奏良は携帯で時間を確認した。


「……みーちゃん、そういうのはもっと早く言おうね」


現在の時刻は十時だった。


時間がないと言っていたのに、奏良は一時間で十分すぎるくらいのおかずを作り上げた。
そして時間ぴったりにお母さんたちが帰ってきた。


お母さんとお兄ちゃん、私と奏良で食卓を囲むという、とても不思議な光景が出来上がった。


「美乃里が任せほしいって言ったから任せたけど……まさか、奏良がいたとは」
「みーちゃんもちゃんと手伝ってくれたんだよ。ねー?」


三人の視線が私のほうに向いて、つい顔をそらしてしまった。
だけど、そのまま首を縦に振る。


「どおりで、いつもよりおいしいわけだ」
「美乃里、ありがとう」


二人の言葉が嬉しくて、胸が熱くなった。


「みそ汁は、どう?」


それなのに、奏良はわざとらしくそんなことを聞いた。


「めちゃくちゃうまい。一か月くらい奏良のご飯食べてたけど、こんな味じゃなかったよな?」
「だって、みーちゃん。よかったね」


嬉しいなんてものじゃなかった。
私の目から大粒の涙が零れ落ちた。


「よかったあ……」


奏良はそんな私を抱きしめ、頭をなでてくれた。