奏良がいて、お兄ちゃんがいないときはみそ汁の練習をするようになった。
だけど、お兄ちゃんには内緒にしているせいで、作ると二人でそれを完食しないといけなくて、晩ご飯をしっかりと食べられない日が続いた。


「美乃里、大丈夫か?」


さすがに不審に思ったのか、心配されてしまった。


「……うん」


でも、詳しく説明することはできなくて、言葉を濁した。


「母さん、もうすぐ帰ってくるから、元気出せ」
「本当!?」


椅子を倒す勢いで立ち上がったせいで、お兄ちゃんは箸で掴んでいたジャガイモを落とした。


「ああ。明後日には退院できるって」


久々に心が躍った。
言葉にはできないくらい、嬉しかった。


お母さんのお見舞いには何度も行っていたけど、病院で会うのと家で会うのとはやはり違う。


「退院祝いに、焼き肉にでも行くか」
「そのお金はどこから出てくるの。奏良にバイト代も出してるんじゃないの?」


食器を下げながら、自分の言い方に後悔する。


「それがさ、いらないって言うんだ。なんか、いいものもらってるからって」
「ふーん……」


興味なさげに返事をし、スポンジに洗剤をつける。


「退院祝い、さ……私に任せてもらえないかな」
「美乃里に?別にいいけど……何かするのか?」
「なんでもいいでしょ。早く食器下げて」


まだみそ汁しか作れないのに、大きく出てしまったと思ったけど、不思議となんでも作れるような気がした。