翌日、学校から帰ると、お兄ちゃんが言っていた助っ人がキッチンにいた。


「お帰り」


笑顔で言われ、お母さんのことを思い出した。
私は声を殺して泣き出してしまった。


「あ、おい!なに人の妹泣かせてるんだ、奏良(そら)!」


部屋の奥から出て来たお兄ちゃんは、私の前に立った。


「いや、誤解だから!お帰りって言っただけ!」
「何もされなかったか、美乃里」


ソラという人の言葉を無視し、お兄ちゃんは私のほうを向いた。
ここまで心配されると思っていなくて、驚きで涙が止まった。


「人の話を聞いて!?」


その叫び声とほぼ同時に、何かが吹きこぼれるような音がした。
ソラはお兄ちゃんの背後からいなくなった。


「キッチンからお帰りって言葉を聞いて、お母さんのこと、思い出しただけだから……」


私の頭に置かれた手は、大きくて暖かかった。


「あいつは野上奏良。俺の大学の友達で、料理上手なんだ。バイトってことで、ほぼ毎日作りに来てくれることになった」
「あの人に渡すお金、あるの?」


お兄ちゃんは私から目を逸らし、どこか遠いところを見た。


「まあ、そこはなんとかするよ。美乃里は気にするな」


そしてその日、食卓に並んだロールキャベツはとてもおいしかった。