お母さんが入院し、家にしばらく帰ってこないと聞いたとき、大声で泣いた。
十歳年上の兄をひどく困らせた。


お父さんは物心ついたときからいなくて、お母さんがいない間はお兄ちゃんと二人で生活をすることになった。


だけど、お兄ちゃんは料理が下手で、お世辞にもおいしいとは言えなかった。


「お兄ちゃんのご飯、食べたくない」


あまりにまずくて、箸を置いた。
怒られると思ったけど、お兄ちゃんも食べることができなくなったのか、苦笑した。


「ごめんな、美乃里(みのり)。明日はどうにかするから」


お兄ちゃんは食卓の真ん中に置いていた焼きそばをさげた。


つらそうにするお兄ちゃんの背中が小さく見えて、私は小皿に取っていた自分の分を口に運ぶ。
やっぱりまずくて、水で流し込んだ。


「美乃里、無理しなくていいぞ」


お兄ちゃんは小皿に手を伸ばそうとして、私はそれから逃げる。


「……おなか、空いてるもん」
「カップ麺とかあるけど」


もう一口と食べると、今までの味が嘘だったみたいに、美味しかった。
どうやら、ちゃんと混ぜることができていなかっただけらしい。


「食べれるとこあるから、大丈夫」


そう言うと、お兄ちゃんは私の頭に手を置くと、髪がぐちゃぐちゃになるくらい、なでてきた。


「そうか。でも、明日からは助っ人呼ぶからな」