「……く!琥珀!」



すっかり考え込んでしまっていた琥珀の目の前に、唄姫……否、姫とよく似た由菜の顔があった。


姫と似た顔が至近距離にあったことで、琥珀は不覚にもドキリとする。



「もう、忍びってそんな風にぼんやりしてたら、敵にやられちゃうんじゃないの?」


「呆けてなどいない。少し考え事をしていただけだ」


「あ、もしかして『姫』のこととか?」


「……」


「図星みたいね」


「彼女は拙者が守らねばならないお人。考えて何がおかしい」


「ふうん?」



意味ありげに笑われ、少しばかりいらだつ。

正直、自分と姫の関係について詮索されるのは不愉快だ。


琥珀にとって唄姫は主の娘で守るべき存在。

それ以上でも以下でもない。



それこそ、琥珀がどんなに想っていようと、その関係が変わるはずがない。



不愉快ではあったが、そのようなことで不機嫌さを(あらわ)にするほど子どもではない。

なので気を鎮めてから少し不思議に感じていたことを問うた。



「拙者の話はどうでもいい。
それよりお主は何故、昨日突然この森に訪れようと思ったのだ?」



確か、由菜は昨日、初めてこの森に来たというようなことを言っていた。

琥珀が自分の住む場所から飛ばされてしまったのも昨日。不思議な偶然だ。



「うん…ちょっと、昔聞いた話を思い出してね」


「昔聞いた話?どのようなものだ?」


「……秘密」



由菜は右手の人差し指を立てて笑う。

そう言われてしまうと気になるが、本人は話すつもりなさそうだ。



「それよりさ、琥珀は元の場所に帰りたいんでしょ?
協力するとは言ったけど、手がかりなしじゃあ何もできないから、そうなった状況を詳しく教えてよ」