宣言通り、由菜は翌日の夕方頃、森に姿を現した。



「琥珀ー?」



名前を呼ばれ、琥珀は木の上からさっと降りた。

今日も昨日と同じ「せーらーふく」という妙な服である。


琥珀の顔を見た由菜は、嬉しそうに笑った。



「よかった!昨日のは夢じゃなかったのね」


「何もよくない。夢であったらどれほどよかったか……」


「もう!」



由菜が頬を膨らませる。

表情がコロコロ変わって、なかなか面白い。



(姫はこんな風に感情を表に出すのを抑えている節があったからな)



琥珀の知る唄姫はいつも寂しそうにしていた。

笑う時ですらもどこか陰がある。






『ねえ、琥珀。貴方は、何があっても私と一緒にいてくれますか?』


『もちろん。姫がそう望むのであれば……』



唄姫と何度も交わした会話。


彼女は、琥珀が自分の命を投げ打ってでも自分のことを守るだろうと知っていた。

だから、琥珀の答えが嘘であることも無論分かっていたはずだ。



それでも、その答えを聞いた瞬間だけ表情から寂しさが消え、心から安心したという様子を見せるのだ。


その顔は、琥珀の脳裏にいつもしっかり焼き付いていた。



(姫も、その心に宿る寂しさを消せたら、この由菜のように色々な表情を見せてくれるのだろうか)



自分が突然いなくなってしまったが、唄姫は無事だろうか。