琥珀はギリ、と歯ぎしりする。そして、由菜に掴みかからんばかりの勢いで尋ねた。
「答えろ!どうやったら元の場所に戻れる!?」
「知らないわよ!わたしだってイマイチ信じられないし」
「姫を守らねば……姫の所へ行かなくてはならない!」
琥珀の感情に呼応するかのように、森の木々がザワりと揺れる。
悔しそうな顔で、すがるように見られた由菜は、ちょっと目をそらした。
「その『姫』って、あなたにとって大切な人なの?」
「当たり前だ。拙者の命に代えてでも守らなければならないお方だ」
「そう……」
再び強い風が吹く。
由菜は煽られる長い髪をかきあげた。
「……帰り方を探すのに、協力してあげようか?」
琥珀はハッと目を見開き、由菜を凝視した。
と思うと、険しかった表情が、みるみると柔らかくなり、ギュッと彼女の手をとる。
「本当か!感謝する、由菜!」
由菜は驚いたようにとられた手を見つめる。
顔が少しだけ赤い。
「で、でも一つ条件っ!」
「条件?」
「うん……その前に手、離して」
「ああ、すまない」
琥珀は慌てて手を離した。
色が白くて細い手首も、唄姫に似ている。
「わたし、この森すっごく気に入った。だから、これから毎日この森に来る。
でも、今日みたいに野犬に襲われたりしたら怖いから、わたしのことを守ってほしいの。あなたの大切な『姫』を守るみたいに、ね」