「あなた、タイムスリップしたんじゃないかな」


「たいむ……?」


「えっと、要するに時を超えてここに来たのかな、って。
今この時代に、忍びなんて存在しないから」


「は……?」


「あなたの暮らしていた場所って、どんなんだった?」



由菜の言っている意味が分からず、戸惑いながらも、質問には素直に答える。



「戦の絶えない所だ。天下人になろうと目論む者たちが多くいるせいでな。
まあ、深蔵様は欲のない方であるが」


「うーん、じゃあ戦国時代かな?ええっと……どうだろ、織田信長とかいたりする?」


「尾張の……」


「わ、本当にいるんだ」


「どういうことだ?詳しく話せ」



詰め寄ると、由菜は真剣な顔で両手を広げた。




「ここは、あなたのいた時代から、だいたい400から500年後の場所よ」


「何の冗談だ?」



言われた言葉の意味がしばらく理解できなかった。

そしてようやく理解しても、開いた口が塞がらなかった。


だが由菜が冗談を言っているようには見えない。そもそも、出会ったばかりの琥珀にそんな馬鹿げた嘘をつく理由がない。



「ここはあの世ではなく、未来だと云うのか?」


「ええ。さっき妙だとか言ったこの服も、この時代にはたくさんの人が着ているわ。
逆にあなたが知っているような服を着ている人はほとんどいないわね」


「では拙者は、戦いの最中に……姫の護衛をしていたはずが、突然未来へ行ってしまったということなのか……?」


「きっと、そういうことだと思う」


「そんな……」



言葉を失う。


それならば、唄姫はどうなってしまったのか。

あんな中にあのお方を置いてきてしまうとは……