「ふぅ……ここか」



由菜は一輪の花を手に、山を歩いていた。


色付いていた木の葉は完全に散り、一面が琥珀色に染まっている。



何度も行った山でも、頂き近くまで来たのは初めてだ。

なかなかに景色が良い。


地味で、無造作に石だけが置かれたような墓が、そこにはあった。



琥珀の墓だ。

書庫にあった記録を何度も確認したので間違いない。


花を供えて手を合わせる。



「こんなに近くに自分のお墓があったのに、あの人自分で気づかなかったのね」



由菜はそうクスリと笑った。


400年も眠っていたはずの霊が、何故突然目を覚ましたのかは分からない。

だけど、おかげで由菜は琥珀と出会えた。


別れは辛かったが、出会わなかったら良かったとは思わない。



「……」



ザアッと強い風が吹いた。


葉の付いていない木が大きく揺れる。



そこには、前髪が長く飄々としたあの忍びがいるような気がした。



ーfinー