少女漫画好きな年頃の女の子が、ヒーローに、恋のような感情をもつように、由菜もいつしかその忍びに憧れを抱くようになった。

だから、最初に琥珀と出会った時、あんな嘘をついた。



『あなた、タイムスリップしたんじゃないかな』



来栖家の特別な力を受け継いだ由菜は小さい頃から、霊や妖などの人ならざるものが見えた。そしてそのようなものは、特有のオーラを持っている。



琥珀にもそのオーラがあった。

400年以上眠っていたせいか、そのオーラはかなり薄いものであったため、すぐには気が付かなかったが。


その事実に気が付いた時、由菜は彼が唄姫と恋に落ちたあの忍びだと直感した。


今まで物語の中の人でしかなかった憧れの存在が目の前にいる。

それが嬉しくて、何とかこの場に留まって欲しいと思った。



──そして、一緒に話をして過ごすうちに、物語のヒーローへ抱いていた憧れは、恋心へと変わっていった。



「バカだなあ、わたし」



由菜はベッドの上で膝をかかえ、独りごちた。



「叶うわけない恋なんて、するもんじゃないのに……」



窓を開けると、ひんやりとした風が入り込んでくる。

青白く光る月を見て、由菜はゆっくりと息を吐き出した。