由菜は力なく微笑んだ。
「わたし、少し期待してたんだ。
もしこのまま琥珀が色々と思い出さなかったら、ずっとこうして一緒に過ごせるんじゃないかって」
「由菜……」
「そんなこと考えちゃうなんて、わたし琥珀に恋しちゃってるのかなあ……とか考えたけど、きっとそうじゃない。
そんなんじゃなくて、わたしにとってこう、どこか特別な時間を共有できる存在なの」
「特別な時間、か」
琥珀は由菜と過ごした短い時間を思い返しながら目を細めた。
お互いに、少しだけ自分の話をする。
言ってしまえば、それだけの時間。
だが確かに、由菜の言う通り特別な時だったように思える。
「琥珀は今でも『姫』のことを──唄姫様のことを愛してる?」
「唄姫、様……」
琥珀は驚いて、思わず繰り返した。
今まで、由菜の前で唄姫の話をする時は、ずっと「姫」と言っていた。「唄姫」という名を出したことは、記憶上一度もない。
不思議には思ったが、そこを追及する気にはならなかった。
「ああ、もちろん愛している」
「そっか……」
琥珀は穏やかな表情を浮かべて、よく通る声で由菜にこう尋ねた。
「由菜、お主の力をもってすれば、俺を成仏させることは可能か?」
「できるわ。何せ、来栖家は大昔の陰陽師の血を引き継ぐ家系だもの」
来栖家の持つ特別な力。
それは人ならざるものを認知し、害をなすなどと判断された場合はそれを祓うというものである。