「……この想いは、墓場まで持ち越すつもりだったのに」
低く、まるで独り言のように琥珀は呟いた。
端正な顔をいつも半分ほど隠している前髪をガサリとかきあげ、唄姫を見る。
「拙者の使命はあなたを守ること。必要以上の感情を抱けばただ辛くなるだけ。
……頭では理解しながらも、どうしようもない感情を抱きだしたのはいつからだっただろう」
「っ!」
琥珀は、頬に触れる唄姫の手に自分の手をそっと重ねた。
彼女は一瞬、驚きに目を見開いたが、すぐにふんわりとした笑みを浮かべる。
「あなたも、私のことを好いていてくれている、ということかしら?」
「はい」
「それなら……」
唄姫は期待を含んだ口調で言う。
しかし、琥珀は押さえつけていた手の力を緩めた。
「愛しています。だからこそ、あなたの頼みは聞けない」
期待を抱いていた瞳が、みるみる絶望の色に変わる。
唄姫は消え入りそうな声で尋ねた。
「どうして、ですか?」
「貴女は幸せにならなければならない人間だ」
「あなたと共にいれば、私は幸せです」
「貴女が拙者に抱いている感情は、虚構にすぎない。妙な術にでもはまっているだけだ」
琥珀の言葉に、唄姫は意味がわからないという風に首をふる。
「私のあなたへの想いは、虚構などではありません。私は本当に……」
「いえ、あなたの近くにいて、気軽に話のできる男が拙者しかいなかっただけにすぎない」