その間、琥珀は優しく唄姫の背を撫で続けた。
泣き止んだ唄姫はそっと顔を上げた。
潤んだ瞳に震える唇。
儚さの中に色気があり、琥珀の心臓はバクバクと激しく打つ。
(こんな姫は、初めて見た)
自分の運命を受け入れた彼女からは、特有の強さが感じられた。
しかし今の彼女は、年相応の弱さを滲ませる少女に見える。
「琥珀……頼みがあります」
「拙者にできることでしたら、遠慮なくおっしゃってください」
唄姫は、まっすぐ琥珀の目を見つめたまま言った。
「私を連れてどこか遠くへ行ってください」
「え……」
細く白い手が、琥珀の頬に恐る恐るといった感じにそっと触れる。
「私はあなたの隣で生きていたい。誰か他の男のものになるのなんて、嫌です」
「何、を……」
言葉に詰まる。
全く予想できなかった願いだった。
「あなたのことを愛しています、琥珀」
「姫……」
天井を仰ぎ、自分の視界に唄姫が入らないようにする。
このまま彼女を見ていると、「立場」や「使命」により何とか保っている理性が吹っ飛んでしまいそうだ。
「拙者をからかっているのですか?」
「いえ、私は本気です」
言葉の通り、その目に嘘はない。琥珀だってそれはわかっている。