衝撃で思考が一時停止してしまっていた琥珀が、かすれる声でようやく一言絞り出した。
白塚家は、大きく力のある家。関係を結べば、来栖家もずいぶんと安定することだろう。
「白塚家の次男が、私のことを是非にとおっしゃったそうです。
一応、絶世の美女ってことになってますものね、私」
唄姫は冗談を混ぜて言うが、場の空気は重い。
敵対する家との関係を結べるのだから、それはとても喜ばしいことだ。
頭では理解している。
「……おめでとうございます」
気持ちが少しもこもっていないのは、自分でも嫌という程分かる。
それでもどうにかして笑顔を作った。
「深蔵様も、さぞお喜びのこでしょう」
「ええ。父上はとても嬉しそうにしてらしたわ」
それだけ言うと、唄姫は押し黙った。
琥珀もそれ以上何と言ってよいか分からず、ただ、本心が表に出ないようにだけ気をつけていた。
やがて、唄姫がか細い声で訴えた。
「私は……嫁になどいきたくありません」
「姫……」
細い涙の筋が、彼女の白い肌をつっとつたう。
ぷっくりとしたその唇からは、時折嗚咽が漏れる。
「琥珀、こちらに来てください」
唄姫は手で涙を拭いながら、琥珀に自分の隣を示した。
琥珀は黙ってそれに従い、そこに座る。
すると、唄姫はギュッと琥珀に抱きついた。
顔を琥珀の胸元にうずめ、しばらくの間、声を上げて泣いた。