唄姫の護衛。それが琥珀の任務だった。

唄姫は、年齢より若干大人びた顔立ちに艶やかな黒髪を持つ、美しい女性だ。



「琥珀!隠れてないででてきてくださいな。一緒にお話しましょう」


「姫、拙者はあなた様の護衛であり、友人ではありません。そう気軽に近くへ呼ばない方がよろしいかと」



唄姫は暇になると、見えない場所で護衛をしていた琥珀を呼び出し、話し相手にした。

琥珀も一応文句は言いながらも、憧れの人とこうして話せる時間は好きだった。



「あら、良いではありませんか。私は来栖家に生まれ、力を受け継いだというだけで自由な生活から切り離されているのですよ?
話し相手ぐらい、好きに選ばせて欲しいわ」


「そしてその相手に拙者を選んでくださったということですか。それは光栄」



琥珀の軽口に、唄姫はいつも口に手を当てて、クスクスと楽しそうに笑ってくれる。


どこか寂しそうな表情がいつも張り付いているのは気がかりだったが、琥珀と話す時は嬉しそうにしてくれた。


近くにいられるだけで、他愛のない話をできるだけで、とても幸せだった。




──無論、そんな幸せが続くはずないことは分かっていた。

だが、その時間の終わりはそれにしたって突然だったように思う。




「琥珀。私、白塚家に嫁ぐことが決まりました」



ある日、温度の感じられない声で唄姫は琥珀に告げた。


どこか寂しそうなのはいつも通りだが、いつも以上に感情を押し殺しているように思われた。



「白塚家、ですか」