(とは言ったものの、姫について何を話せば良いだろうか)



その夜、琥珀は木の上に腰掛け、満天の星を眺めながら考えた。


姫は来栖家の特別な力を受け継ぐ存在で、心優しく美し女性だった。

いつもどこか寂しそうで、守らねばならないと思わせる。



(で、いつしか憧れてたんだよな。身の程知らずにも)



唄姫に仕える身でありながら、どうしようもなく愛してしまう。

そんな自分が嫌になったのも一度や二度ではない。



いっそ気持ちを口にして、はっきり拒絶された方が楽になれるのではと考えたこともあった。

だが、それは主の信頼を裏切ることに他ならず、それもできなかった。




(由菜は、自分が俺の愛した人と重ねられていたと知ったら、気を悪くするだろうか )



『わたし多分、嫉妬する』



今日の彼女の言葉がよみがえる。

それはやはり、そういう意味なのだろうか。



(いや、単に仲良くなった人間が、自分の知らない人とのことを話すのはつまらない……というだけのことかもしれないしな)



あまり自惚れないようにと自らを戒める。


だが、それに対して……



(俺は完全に、見たことすらない由菜の婚約者に対して、嫉妬している)



あれほど唄姫のことを想っていたのに。

自分のことすら、よく分からない。



(とりあえず明日、そのあたりの話が聞ける)



だが翌日、いつもの時刻になっても、由菜は姿を現さなかった。